本文へスキップ

TEL. 0846-24-6780

〒725-0024 広島県竹原市港町5−8−1

カイアシ類に寄生する繊毛虫
liniru.gif

原生生物の仲間として、繊毛虫がいます。繊毛構造をもっています。このよう繊毛を持つ原生動物を繊毛虫といいます。隔口類繊毛虫とは宿主にシストの状態で付着する広い意味での寄生性繊毛虫です。宿主としては主に、カイアシ類、カニ類、エビ類などの甲殻類が報告されています。
複雑な生活史をもち、ステージによって形態、機能は大きく異なります。多くの種は宿主の粘液や脱皮殻などを食べ宿主にほとんどダメージを与えません。しかし、中には宿主を殺してしまうものもいます。
ここでは、広島県竹原市沿岸で採集できるカイアシ類に付着しているVampyrophrya pelagica の生活史について紹介します。この繊毛虫は、宿主であるカイアシ類が傷つくと、傷口から外骨格の中に入り、その組織を食べカイアシ類を殺してしまいます。Vampyrophrya pelagicaには4つの形態的、機能的に異なるステージがあります。

外部寄生性隔口類繊毛虫の生活史

CEO

(1)シストを形成し付着するフォロント(phoront)

(2) 摂食し成長するトロフォント(trophont)

(3) フォロントとは別のシストに入り分裂し、トミーテを生産するトモント(tomont)

(4) 遊泳し分散して新たな宿主を探すトミーテ(tomite)


 ※参考文献

(1)フォロント(phoront):休眠期

 繊毛虫はシストの状態でカイアシ類に付着しています。このステージをフォロントといいます。
CEO

図5.カイアシ類に付着するフォロント(原図)
CEO

図6.拡大したフォロント(原図)
CEO

フォロントは直径約15μmの楕円体で約2.5μmの柄がついている"ぼんぼり"のような形をしています。カイアシ類の付属肢の付けねに付着していることが多く、背側にはあまり付着は見られません。

図7.フォロント(走査型電子顕微鏡写真,原図)
CEO

フォロントの内部は、シスト膜下にすでに繊毛が完成しており、いつでもトロフォントとしてシストから出ることができるようになっています。
また、特殊な層状の膜構造がみられます。これは、次のステージでトロフォントがカイアシ類の組織を食べ急激に大きくなるための膜の供給源になると考えられています。

図8.フォロント(透過型電子顕微鏡写真,原図) LS 層状の膜構造

(2)トロフォント(trophont):栄養期

CEO

摂食ステージがこのトロフォントです。フォロントが付着していたカイアシ類が傷付いた時や、カイアシ類がヤムシに捕食された後、シストからトロフォントが出てきます。トロフォントは、カイアシ類の外骨格の中に入り、組織を食べます。

図9.カイアシ類外骨格中のトロフォント(原図)
CEO

ヤムシの消化管の中で、トロフォントはカイアシ類の組織を食べます。ヤムシはトロフォントを生きたまま排泄物として排出します。

図10.ヤムシの排泄物中のトロフォント(原図)
CEO

シストから出てきたトロフォントは直径30μm程度の大きさですが、カイアシ類の組織をどんどん食べ、次のステージに移るころには倍の直径50μm程度になります。図11がトロフォントの走査型電子顕微鏡写真です。表面に生えている毛を繊毛といい、繊毛の並んでいる列を繊毛列といいます。この繊毛列の並び方で種を同定することが出来ます。

図11.トロフォント(走査型電子顕微鏡写真,原図)
CEO

図12は摂食中のトロフォントの切片です。右側がトロフォント細胞です。細胞内に小さい膜構造がたくさんみられます。これは、カイアシ類の組織を食べ急速に大きくなるための膜の供給源となっていると思われます。

図12.摂食中のトロフォント(透過型電子顕微鏡写真,原図)
CEO

図13は、摂食後のトロフォントの切片です。さきほどの膜構造は見られなくなり、細胞のほとんどを食胞が占めています。

図13.食後のトロフォント断面図(透過型電子顕微鏡写真,原図)FV 食胞 MA 大核 LB 脂質


 

(3)トモント(tomont):分裂期

CEO

カイアシ類の組織を十分に食べると繊毛虫はカイアシ類の外骨格の中で、フォロントとは異なる分裂するためのシストを作ります。この時期をトモントといいます

図14.カイアシ類外骨格中のトモント(原図)
CEO

トモントは直径約60μmの楕円体をしていて、シストを作ってしばらくすると、分裂を始めます。2細胞から20細胞以上に分裂します。
やがてシストの中で分裂した細胞が動き出します。そして次のステージに移ります。

図15.拡大したトモント(原図)

(4)トミーテ(tomite):遊泳期

                
CEO

分裂し動いていた細胞がシストから出てきます。このステージがトミーテです。トミーテは4つのステージの中で一番遊泳能力が高いステージです。

図16.シストから出るトミーテ(原図)
CEO

トミーテは約25×20μmの紡垂体で、シストから出た後、トミーテはカイアシ類の外骨格の中を泳ぎ回っていますが、やがて外骨格が壊れているところや、触角など壊れやすいところから外へ出ていきます。
外へ出たトミーテは、新しいカイアシ類を探して泳ぎ回り、再びカイアシ類にフォロントとなって付着します。

図17.カイアシ類外骨格中のトミーテ(原図)


参考文献

  • Bradbury.P.C.(1966)The Life Cycle and Morphology of the Apostomatous Ciliate,Hyalophysa chattoni n.g.,n.sp.J.protozool.,13(2),209-225 Klaus Hausmann, Bradbury.P.C.編,CILIATES Cells as organisms,GUSTAV FISCHER  R.R.Kudo,(1971)Potozoology,Thmas,944-948
  • 山路勇 著,(1966)日本海洋プランクトン図鑑,保育社,大阪,294-388.
  • 千原光雄,野村正昭 編,(1997)日本産海洋プランクトン検索図説,東海大学出版会,東京,449-1004. 
  • 大塚攻,長澤和也,槐島光次郎,(2000)海洋動物プランクトンの寄生生物,日本プランクトン学会報 47(1),1-16
  • 猪木正三 監修,(1981)原生生物図鑑,講談社,東京,816pp
  • Gerard M.capriul, Marco J. Pedone, Eugene B. Small,(1991)High apostome ciliate endparasite infection rates found in the Bering Sea euphausiid Thysanossa inermis,Mar.Ecol.Prog.Ser. vol.72,203-204
  • Gerard M.capriul,Eugene B. Small,(1986)Discovery of an apostome ciliate (Collinia beringensis n.sp.)endoparasitic in the Bering Sea euphausiid Thysanossa inermis,Dis.apuat.Org. vol.1,141-146
  • Klaus Hausmann, (2002) Food acquisition, food ingestion and food digestion by protists,jan. J. Protozool. vol.35 No.2,85-95
  • 丸山晃 著,丸山雪江 絵,(1997)原生生物の世界‐細菌類、藻類、菌類と原生動物の分類‐,内田老鶴圃,東京,472pp
  • 山田常雄 他編,(1977)岩波 生物学辞典,岩波書店,東京.
  • 重中義信,白山義久 (2000)原生動物亜界,74-93,白山義久 編,無脊椎動物の多様性と系統,裳華房,東京.
  • 高木由臣,春本晃江 (1997)原生動物,12-13, 日高敏隆 監修,日本動物大百科,平凡社,東京.

 

バナースペース

水産実験所

〒725-0024
広島県竹原市港町5−8−1

TEL 0846-24-6780
FAX 0846-23-0038